88鍵の世界ーピアノの音域と響きのひみつ
こんにちは!
大塚駅から徒歩2分の音楽教室、ミュージックアカデミーラファーレ ピアノ講師の東出です。
ピアノのふたを開けてみると、ずらりと並んだ白と黒の鍵盤。その数は全部で88鍵あります。普段のレッスンでは、どこまでが高い音でどこからが低い音なのか、意識することは少ないかもしれません。でも、ピアノがなぜ88鍵なのか、そしてその鍵盤の並びがどのように豊かな響きをつくり出しているのかを知ると、楽器への愛着がぐっと深まります。
どうして88鍵?
ピアノの始まりは18世紀です。はじめのころのピアノは鍵盤が60鍵前後しかなく、音域は今よりずっと狭いものでした。しかし作曲家たちの表現したい音楽が広がるにつれて、「もっと低い音がほしい」「もっと高い音も必要だ」という声が増えていきます。特にベートーヴェンが活躍した時代には、低音の力強さや高音の輝きが求められ、鍵盤の数はどんどん増えていきました。
やがて19世紀後半には、現在の標準である88鍵が定着します。ピアノメーカーのスタインウェイ社が作ったモデルが世界に広がり、作曲家もその音域を前提に作品を書くようになったのです。今では88鍵はピアノの“完成形”ともいえる姿になっています。
低音と高音の世界
一番左の低い音を弾いてみると、空気が震えるような重たく深い響きがします。これは弦がとても長く、太いことが理由です。低音は大地のような安定感を音楽に与え、和音の土台を支えてくれます。
反対に、一番右の高い音はきらきらとした輝き。弦が短くて細いため、軽やかに空気を震わせます。まるで光が差し込むような透明感があり、メロディーを華やかに彩ってくれるのです。
同じ88鍵の中でも、場所によって音の色は大きく違います。低音は重厚で温かく、高音は澄んでいて軽やか。真ん中のあたりは、人の声に近い柔らかい響きです。この幅広い音色こそが、ピアノを“オーケストラ1台分”と呼ばれるほど表現力豊かにしているのです。
弾く人によって変わる音
ピアノは「打鍵楽器」といわれるように、指で鍵盤を押してハンマーを動かし、弦を打って音を出します。しかし、ただ鍵盤を押すだけでは同じ音にはなりません。指先の重さのかけ方、スピード、タイミング、そしてペダルの使い方…ほんの少しの差で音の響きが大きく変わるのです。
たとえば、低音を強く弾けば重く響きますが、指をそっとのせるように弾けば深く柔らかい音になります。高音も、鋭く打てばきらめきが増し、ゆっくり押せばやわらかな光のような響きになります。同じ88鍵でも、弾く人によってまるで違う楽器のように感じられるのはこのためです。
ピアノを学ぶうえでの楽しみ
レッスンをしていると、生徒さんがだんだんと鍵盤の場所や音の高さに親しんでいくのがよくわかります。最初はドの位置を探すだけで精一杯だったのに、少しずつ低い音の深さや高い音のきらめきに気づくようになっていく。音の色の違いを感じ始めると、表現の幅がぐっと広がります。
発表会の曲を選ぶときも、この88鍵の広さが大きな魅力になります。左手の低い音で堂々とした雰囲気を出したり、高音でやさしい光を描いたり。作曲家がどんな風景や感情を描きたかったのかを、鍵盤の場所と響きから感じ取れるようになると、音楽はますます楽しくなります。
おうちでできる小さな発見
ご家庭でも、ピアノの音の広さをぜひ体験してみてください。お子さんと一緒に一番低い音から順番に弾いてみましょう。だんだん音が明るくなったり、響きが軽くなったりするのを耳で感じるのはとても面白いものです。大人の方も、普段あまり触れない低音や高音をそっと鳴らしてみると、新しい発見があるかもしれません。
まとめ
88鍵はただの数字ではなく、作曲家たちが夢を広げ、私たちが音で自由に表現するために生まれた“世界”です。低音から高音までの幅広い響きが、ピアノをひときわ豊かな楽器にしています。
レッスンでも、生徒さんが音域の広がりを知ることで、自分の音楽を描く力が少しずつ育っていきます。鍵盤の数や音の仕組みに耳を傾けるだけで、日々の練習がもっと楽しく、創造的な時間になるはずです。






